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クラビズコラム
2025.12.07

中小企業のWeb戦略は「数値化」で変わる。経営者が知っておくべきKPI・KGI設定と“伴走型”運用


「ホームページをリニューアルしたのに、期待したほど問い合わせが増えない」
「毎月制作会社からレポートをもらっているが、専門用語ばかりで経営判断にどう活かせばいいか分からない」
「そもそも、Webサイトが営業や採用にどれだけ貢献しているのか、数字で見えていない」
もし、あなたが今、このようなお悩みを抱えているなら、この記事が少しでもお役に立てるかもしれません。ぜひ、これからのWeb活用の参考にしてみてください。
岡山県をはじめ、地方の中小企業経営者の皆様からご相談をいただく中で、最も多いのが「Webへの投資対効果が見えない」という課題です。
地方企業にとって、Web活用はもはや商圏拡大や人材確保の生命線。しかし、多くの企業が「作ったまま」の状態か、あるいは「なんとなくPV(閲覧数)を追うだけ」の運営に留まってしまっています。
実は、Webサイトで成果を出している企業と、そうでない企業の違いは、デザインの良し悪しや予算の規模だけではありません。
「正しい経営ゴール(KGI)の設定」と、「そこに至るための道筋の数値化(KPI)」ができているかどうか。
そして、その数値を「一緒に見て改善し続けるパートナー」がいるかどうか。
成功の要因は、この2点に集約されます。
本記事では、Webの専門知識がない経営者の方でも明日から実践できる「目標設定の教科書」として、KGI・KPIの基本から具体的な設定方法を解説します。

なぜ、「とりあえずPVアップ」では失敗するのか?(KGIとKPIの基礎)

「Webサイトの目標は何ですか?」とお聞きすると、多くの経営者様や担当者様から「まずはアクセス数(PV)を増やすことです」という答えが返ってきます。
もちろん、多くの人に見てもらうことは大切です。しかし、経営的な視点で見たとき、単に「アクセス数」だけを追いかけるのは少し危険かもしれません。なぜなら、Webサイトにとってアクセス数は「手段」であって「目的」ではないからです。
まずは、Web戦略の土台となる2つの指標、「KGI」と「KPI」の違いについて整理しておきましょう。

KGIとKPIの違いとは?

似たようなアルファベットで混乱しやすいですが、役割は明確に違います。それぞれの違いを一覧表にまとめました。

項目KGI
(重要目標達成指標)
KPI
(重要業績評価指標)
意味ビジネスの
「最終的なゴール」
ゴールまでの
「中間目標(プロセス)」
イメージ 登山の「山頂」
(ここ到達することが全ての目的)
登山ルートの「チェックポイント」
(ここを通過しないと山頂には着けない)
具体的な例売上高、成約件数、採用人数、粗利益 サイトへのアクセス数、問い合わせ件数、
資料請求率、ページの滞在時間
誰が見るべきか経営者・事業責任者Web担当者・現場スタッフ

経営者である皆様が一番に関心を持たれるのは、当然「KGI(売上や成果)」のはずです。しかし、現場への指示が「もっとアクセスを増やせ(KPI)」だけになってしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまいます。

「手段が目的化」する落とし穴

よくある失敗例をご紹介します。

ある企業様で「Webサイトのアクセス数を月間1万PVにする」という目標(KPI)を掲げました。担当者は頑張って、話題になりそうなブログ記事をたくさん書きました。その結果、目標通りアクセス数は急増しました。

しかし、「売上(KGI)」は全く増えませんでした。

なぜでしょうか?

集まったアクセスのほとんどが、「自社の商品に興味がない人たち」だったからです。例えば、面白おかしい記事で人を集めても、それが購買に繋がらなければ、ビジネスとしては成功とは言えません。

これが、「KPI(アクセスアップ)自体が目的になってしまい、KGI(売上)を見失った状態」です。

「とりあえずPVアップ」が危険な理由はここにあります。

Webサイトは「24時間働く優秀な営業マン」

Webサイトを単なる「会社案内のパンフレット」ではなく、「24時間365日、文句も言わずに働き続ける優秀な営業マン」だと考えてみてください。

もし、貴社の営業マンが日報で次のように報告してきたらどう思いますか?

「社長!今日は100人と名刺交換しました!(アクセス数)」

「でも、商談のアポは0件で、売上も0円です。(成約数)」

おそらく、「名刺交換の数を自慢する前に、中身のある商談をしてくれ」と指導されるのではないでしょうか。

Webサイトも同じです。アクセス数(名刺交換)も大切ですが、最終的にどれだけの資料請求(アポイント)や購入(成約)に繋がったのか。この「営業成績表」こそが、KGIとKPIの設定なのです。

成果を出すための設計図「KPIツリー」の作り方

KGIとKPIの重要性は分かったけれど、具体的にどう設定すればいいのか?

ここで登場するのが、「KPIツリー(ロジックツリー)」という考え方です。

名前は少し難しそうですが、やることはシンプルです。「大きな目標(KGI)」を「構成する要素」に分解していくだけです。これを「因数分解」と言ったりもします。

「因数分解」でボトルネックを見つける

例えば、Webサイトでの売上(KGI)を分解すると、一般的に次のような式になります。

売上 = 訪問数(アクセス) × 成約率(CVR) × 客単価

もし、売上が目標に届いていない場合、原因はこの3つのどこかに必ずあります。

  1. 訪問数が足りない?(認知されていない)
  2. 成約率が低い?(サイトに来ているが、魅力が伝わっていない)
  3. 客単価が低い?(安売りしすぎている、合わせ買いがない)

KPIツリーを作る最大のメリットは、「どこが悪いのか(ボトルネック)」が一目でわかることです。

例えば、「訪問数は十分あるのに売上が上がらない」という場合、これ以上広告費をかけて人を集めても穴の空いたバケツに水を注ぐようなものです。この場合、優先すべきKPIは「訪問数」ではなく、サイトの中身を改善して高めるべき「成約率」になります。

このように要素を分解していくことで、「今、チームが注力すべき数字」が明確になります。

地方企業こそ「KSF(成功の鍵)」を見極める

数字を分解していく中で、ぜひ意識していただきたいのがKSF(Key Success Factor:重要成功要因)です。簡単に言えば、「ここさえ押さえれば勝てる!」というポイントのことです。

地方の中小企業の場合、大手企業と同じ戦い方(全国から大量のアクセスを集める等)をしても、予算規模で負けてしまいます。

  • 大手企業のKSF例: 圧倒的な広告量で認知を取り、価格競争力を武器にする。
  • 地方企業のKSF例: 「岡山 ○○」などの地域キーワードでの検索順位や、Googleマップの口コミ評価(信頼性)。

KPIを設定する前に、「自社のビジネスにおいて、最も売上に影響を与える鍵は何か?」を見極めることが重要です。

「うちはリピーターが多いから、新規集客よりも『メルマガ登録数』をKPIにしよう」
「高額商品だから、いきなり購入ではなく『無料相談の予約数』をKPIにしよう」

このように、自社のビジネスモデルに合わせてツリーを設計することで、無駄な動きがなくなり、最短距離で成果に近づくことができます。

業種別・目標設定の具体例(自社の勝ちパターンを知る)

理論がわかったところで、次は「自社ならどうなるか?」を具体的にイメージしてみましょう。

Webサイトの役割は業種によって全く異なります。ここでは、地方企業によくある3つのパターンで、典型的なKPI設定例(勝ちパターン)をご紹介します。

パターンA:BtoB製造業・建設業(リード獲得)

ニッチな技術や高単価な商材を扱うBtoB企業の場合、一般消費者向けのサイトのように「何万PV」も集める必要はありません。むしろ、アクセス数は少なくても、「本気で検討している担当者」からの問い合わせをいかに獲得するかが勝負です。

  • KGI(ゴール): 新規商談数、見積もり依頼数
  • KPI(指標):
    • カタログ・事例集のダウンロード数:
      いきなり「問い合わせ」はハードルが高いです。「まずは資料だけでも」という見込み客(リード)をどれだけ集められるかが重要です。
    • 「会社概要」「技術紹介」ページの閲覧数:
      BtoBでは、発注前に必ず「この会社は信用できるか?」をチェックされます。これらのページがよく見られている場合、検討度合いが高いと判断できます。

パターンB:地域密着型の店舗・サービス業(来店促進)

飲食店、クリニック、美容室、整体院など、商圏が決まっているビジネスです。

この場合、Webサイト上の数字だけでなく、「リアルな行動」にいかに繋げるかが重要です。スマートフォンでの閲覧がメインになるため、スマホ特有の指標をKPIに設定します。

  • KGI(ゴール): Web経由の来店予約数、電話予約数
  • KPI(指標):
    • スマホ画面での「電話する」ボタンのタップ数:
      地方では、Webで調べてすぐに電話をかけるユーザーが多いです。タップ数を計測することで、実来店への貢献度が見えます。
    • Googleマップ(MEO)の「経路案内」回数:
      「行きたい」と思ったユーザーの最終アクションです。公式サイトのPV以上に重要な指標になることもあります。

パターンC:採用サイト(人材獲得)

地方の中小企業にとって、今や採用は最重要課題の一つです。

大手求人サイトでは給与条件などで埋もれてしまうため、自社サイトでは「カルチャーマッチ(社風への共感)」を重視したKPI設定が有効です。

  • KGI(ゴール): 応募数、採用人数
  • KPI(指標):
    • 「先輩社員インタビュー」の読了率:
      ここをしっかり読んでいるユーザーは、入社後のミスマッチが少ない傾向にあります。
    • エントリーフォームへの到達率:
      「募集要項を見たけれど、応募しなかった人」がどれくらいいるか。多すぎる場合、条件の見せ方やフォームの使いにくさに問題があるかもしれません。

「設定して終わり」ではない。運用で成果を最大化するPDCA

KPIとKGIを設定して「よし、これで完璧だ!」と安心してはいけません。Webサイトは「公開してから(設定してから)」が本当のスタートだからです。

設定した目標を達成するためには、PDCAサイクルを正しく回すことが不可欠です。しかし、多くの企業が「P(計画)」と「D(実行)」で止まってしまい、「C(評価)」と「A(改善)」がおろそかになりがちです。

毎月の「健康診断」を欠かさない

人間が定期的に健康診断を受けるように、Webサイトも定期的なチェックが必要です。Googleアナリティクス4(GA4)などの解析ツールを使えば、数字は嘘をつきません。

  • Plan(計画): 今月は「お問い合わせ数」を10件にする。そのためにブログを3本更新する。
  • Do(実行): 計画通りにブログを更新し、SNSでも告知した。
  • Check(評価):
    • 結果、お問い合わせは5件だった(未達)。なぜ届かなかったのか?
    • 「そもそもブログが見られていない?(集客不足)」
    • 「ブログは読まれたが、問い合わせフォームへのリンクが分かりにくかった?(導線不備)」
  • Action(改善): 来月は、ブログ記事の下に目立つ「問い合わせボタン」を設置してみよう。

このように、「やりっぱなし」にせず、「結果を見て、次の手を打つ」。この泥臭い繰り返しの先にしか、Webの成功はありません。

「自社だけで回す」ことの限界

言うのは簡単ですが、このPDCAを社内のリソースだけで回し続けるのは、現実的には非常に困難です。

  • 専門知識の不足: 「数字は見ているが、そこからどう改善案を出せばいいか分からない」
  • リソースの不足: 「本業が忙しく、Web担当者が兼任で手が回らない」
  • 客観性の欠如: 「自社のことは自分たちが一番分かっているつもりだが、ユーザー視点が抜けてしまう」

多くの地方企業経営者様が、志半ばでWeb活用を諦めてしまう原因は、ここにあります。「設定まではできたが、運用が続かない」。これは決して御社だけの悩みではなく、構造的な課題なのです。

「なんとなく」のWeb運用から、確かな成果へ

Webサイトは、育て方次第で御社の最強の武器になります。しかし、育て方を間違えれば、ただの維持費がかかるだけの箱になってしまいます。

「今のWebサイトは、経営に貢献しているだろうか?」

「設定している目標数値は、本当に正しいのだろうか?」

もし、少しでも不安を感じられたなら、まずは一度、現状のWebサイトの「健康診断」をしてみませんか?まずはお気軽にご相談ください。